5、揺れるココロ

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海沿いを軽快に走りながら所々、篤に島を案内してもらいました。 そして、お日様が真上に上がり日差しが強くなって来た頃、島に唯一ある展望台にやって来ました。 ベンチが置いてありちょうど日陰になっていたので篤が「ここで昼飯、食べよう。」と言いました。 二人でベンチに並んで座り、フミさんが今朝、持たせてくれた二人分のお弁当を篤と食べました。 篤が言うにはこの展望台には地元の人もあまり来ないらしいです。 展望台でお弁当を食べていると 「俺、ここから見る夕日が好きなんだよね。」 と、私のより大きめのおにぎりを美味しそうに頬張りながら言う篤。 「よく来てたの?例えば…彼女とかと?」 イタづらっぽく笑いながら聞いてみると、 「バーカ。一人だっつーの。それとも…妬いてたりして?」 と、軽く返り討ち。 「ち、違います。妬いたりなんてしません。」 「ハッハッ、ムキになるなって。ってゆーかそんな可愛いこと言ってると襲うぞ。」 両手を上げまるで怪獣が襲ってくるかのようなポーズを取る篤に思わず吹き出してしまいました。 「もぅっ!」 なんてことない会話をして笑って… ふと、自分の置かれている厳しい状況が頭を過りそうになりましたが、もう少しだけ… この島にいる間だけは現実を忘れさせてほしい。 戸惑いつつもそんな願いが私の中に芽生えつつありました。 賑やかにお昼を食べて少し休憩してからまた自転車で島巡りをしました。 島巡りをしていて気付いたことがあります。 不思議な事に島で出会う人みんなが篤の事を知っていてしかもみんながみんな、 「あっくん本当に良かったな、良かったなぁ。」 と言うのでした。 ただ単に都会で少し有名な美容室で働く篤が久しぶりに帰ってきたから掛けている言葉なんだとその時は思っていました。 けれどこの言葉の本当の意味を私が知るのはもう少し後の事でした。
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