灯りをつけましょぼんぼりに

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 翌朝、タケルは学校に行こうと玄関のドアを開けたところで、じゅんに出くわしたが、タケルからの質問をじゅんは一切遠ざけた。 「怖いから。聞いてるかもしれないから」との一点張りだった。タケルは、誰が聞いているのかそれだけでも知りたかったが、自分も隣に住んでいるので、こちらに怖いモノが来られても嫌だと思い、それ以上は訊かなかった。それでなくても、タケルの家では最近、父の会社の帰りが遅くなることが多くなり、タケルは不安を覚えていた。この頃では、母は父を待たずに子どもたちを寝かすこともよくあった。「父さんは帰ってこないこともあるから」と言って。  それから三ヶ月後に、タケルは引っ越すことになった。それを聞いたじゅんは泣きそうな顔をした。そして、アパートのドアの前で、タケルに話し始めた。 あの人形の顔が変貌した日、じゅんは両親と妹が帰ったのを見計らって家に入った。箱はそのままで、勝手に雛人形を出したじゅんを叱りながら、中を覗いた両親の手は止まっていたという。 「オレはもう中を見るの嫌だから見なかったけど」  父と母は、じゅんと妹のしほりに隠すようにすぐ箱をしまったという。 「顔が、まだ歪んでたのかな」 「分かんない。でも、オレ、怖くって…」 「ちゃんと話してみたら?」 「なんて?顔が歪んでたって言うの?」 「箱を開けなきゃ大丈夫だよ。お父さんお母さんいるんだし」 「でも、でも、なんか最近、部屋で物音がすごく聞こえる気がするんだ」 「じゅんくんだけが聞こえるの?」 「お父さんもお母さんも、しほりも聞こえないって」 「じゃあ、それはあのお雛様じゃなくて別の音だよ、ウチも」 「もういいよ!」  じゅんは泣きながら、自分の家のドアを開けて入っていった。じゅんはそれから学校へも来なくなった。じゅんの母に訊くと、「インフルエンザにかかったの」と言ってたが、一週間を過ぎてもじゅんが登校することは無かった。
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