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「タケルー上の棚の箱取ってー」
次姉のネネが天井近くの押入れを指差している。
「オレ、出かけるから」
「ママが帰ってくる前に飾っておきたいの。取るだけでいいからさ」
母子家庭となった家で、母の手を少しでも煩わせまいという次姉の気持ちなのだろう。「タケルの方が背が高いから」などと、おだてるような姉の言い方はしゃくに触ったが、タケルは押し入れの上段に上り、その上の押入れに頭を突っ込んで、大きな箱を取ってやった。ドスンと床に落とすと、ネネはたちまち尖った声を上げた。
「乱暴に落とさないでよ!」
「だってこれ、結構重いぜ」
タケルは「ヨッ」と床に飛び降り、ネネが蓋を開けるのを見ていた。姉が首を傾げているので、一緒に箱の中を覗き込むと、男雛が二体入っている。
「えっなんで?」
ネネは二つの人形を手に取り見比べていたが、タケルの心臓は白い冷たい手で鷲掴みにされたように縮上がった。
一体は確かにうちの人形だ。けれどもう一体はどこの家のものだ?理由は分からないが、誰かが故意にこの箱に入れたのだ。そう考えなければタケルは身体が震え出すのを止められない。けれど、その人形の顔はタケルの無意識に押さえ込んでいた恐怖心を引きずり出した。誰の家の物か分からない男雛の顔は、ベランダの窓から逆さまに覗いていた顔にそっくりだった。そのとき、箱の中でぽっと灯りがともった。
「なんでぼんぼりがつくの?」
次第に、ネネも異様な空気を感じ始めたようだ。
冗談じゃない。オレのウチは関係ないじゃないか。こんな遠い場所まで追っかけてくるはずはない。タケルはあのアパートを離れて厄払いをした気になっていた。
「オレ、行くからな」
タケルはこちらに来て作った友人と遊ぶべく、玄関に向かった。
「ちょっと待って、無いよ!」
ネネが悲痛な声を上げた。タケルは予言めいたものを感じて、「何が」とは聞かなかった。振り返ると、立ち上がって泣きそうな顔をしたネネの肩越しに、片側が歪んだどす黒い顔が覗いていた。そして玄関で、「ピンポーン」と呼び鈴が鳴った。
終
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