第2章

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「ねえ、今日のゲストって誰だっけ?」 三智長がその愛らしい“ ドーリーアイ” (禁句)をくるりと回し約20センチ上空の静流を見上げる。 「…忘れた。ヨリ、パス」 振られた縁は王子スマイル・スルーを決め込み、3人の視線が同時に動けば 「オレ?知るわけねーし」 メンバーに17歳(いちなな)病と名付けられた不遜キャラで応じる拓海。 「お前らなーーー、ゲストくらい前日に入れとけよっ」 丸めた台本でポコッポコッポコッポコッとテンポよくそれぞれの頭を叩いていく凪に「ママごめーん」4人が声を揃える。 「誰がママじゃいっ」しっかり突っ込みつつ「今日はめちゃ大物だって先週言っといただろ。ほら…」 バーン。凪が台本を拡げれば 「え!?ヨシナガ・マサユキって…本気?」 三智長がただでさえ高めの声を更に高くする。 毎週月曜夜8時からの1時間番組『なんでもシステム5』は、彼らのミニライブやゲーム対戦はもちろん、芸能界の枠を超えたゲストを招いてのトークが売りのバラエティ番組だった。 と言うのも、彼ら5人は企図せずもフタを開けるとなぜか全員IQ150以上の天才ばかりだったという、才色兼備・少年バージョングループで、アイドル×文化人のトークが世間にウケ、すっかり名物コーナーとなっている。 「うちのライバル事務所の社長が来るとか、正気か?」 吉永昌幸、は老舗の超大手男性アイドル専門の事務所『スパークル』の創立者で、業界のドンとおぼしき重鎮だ。正直、彼らの所属するハイパー弱小事務所など、数年前まで認識すらしていなかっただろう。 静流の言葉にうんうんと頷づいてみせる4人に、 「いつもより入りが2時間も早い時点でふつーなんかあるってわかるだろ!?」 リーダーの心労が思いやられる。 「そんなこと言ってもねー」 「新曲の振りとか直すって言ってたし」 膝の上に座る三智長と、座られている拓海。 「あーあー、もーいいよ。分かりました!来週からぜってー前日にグループラインしまくってやるっ」 国民的アイドル擁する『イノセンス』はその弱小ぶりと経営方針から、どんなに売れているグループにも統括マネージャー1人に補佐1人と決まっており、メンバーに高い自主性が要求される。 そんなわけで“ ママ” の仕事を増やして終わる。それが彼らのお決まりパターンだった。
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