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第3章
梅雨入り久しい東京は、時折、スコールのような豪雨に濡れるだけでとても陽の良い日々が続いていた。
桃や藤色のアジサイを両手に、駅へと続く緩やかな坂道。そこには様々な生徒たちの下校時刻に混じり、念のためにと毎朝持たされる紺色の傘をザリザリと引きずるようにして歩く真弓の姿があった。
放課後らしく弾けるような笑顔で笑い合う生徒たちとは対照的に、ぼんやりと曇る真弓の唇から本人も気が付かないうちにもう何度目かのため息がもれる。
『ねえ、あんたってタクミ様の幼馴染みなんでしょ?』
『今度の文化祭、シスに出て欲しいってあんたからお願いしてよっ』
こんな事態を予測した拓海からは常々オレとの関係がバレないようにと注意を受けていたし、元来目立つことを好まない真弓自身がそれを口にすることはない。にも関わらずほんの小さな穴から漏れるこの手のウワサは、光の速さで界隈を駆け巡るらしかった。
もちろん自分に絡んできた女子たちが、本気で国民的アイドルを高校の文化祭に呼ぶことなど不可能だと理解していることは真弓にも分かっている。
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