第3章

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けれど中学時代、サインや写真をねだる同級生たちに断わりの言葉を重ねる度にいわれのない誹謗中傷を受けてきた真弓にとって、今日の出来事はまたあの日々のはじまりを意味するように思えるのだ。 (タクミ兄の言う通り、男子校にすれば良かったのかな) 否。拓海ほどの知名度ならば、それは問題にもならないはずだ。 (違うよってすぐに否定すれば…) これも否。そんな器用なことができる人間ならば、はじめからこんなことにはならないだろう。 (タクミ兄に相談してみようか) これが最たる否。あんなにも多忙な拓海に要らぬ心配をかけるわけにはいかない。真弓は犬の水切りのようにプルプルと首を振った。 「お帰り、マユ」 途方に暮れたままで玄関のドアを開いた真弓を、待ち構えていた笑顔が迎える。 「た…くみ兄…」 真弓の瞳から反射的に糸雨(しう)。驚きは拓海、真弓双方で、それから、ほほを伝う涙は拓海の胸に受け止められ…はせずに拓海が伸ばした指先は自戒で空を舞う。 「ごめ…ごめんね…」 嗚咽の中に言葉を繋ぐ真弓を、拓海は何も言わずに見つめていたが、ようやく届いた左手でその柔らかな髪を優しく撫ぜた。 ネタを明かせば簡単で、拓海は真弓に内緒で唯一同じ中学から真弓と同じ高校に入った男子を懐柔し、真弓に何かあったら必ず連絡をくれと頼んでいたのだ。 そして今日の午後。舞台挨拶後に届いたLINEの内容で、拓海は急遽ここにいる。     
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