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ゆごうさんはやっぱり穏やかに、にっこりと笑った。
「この古書店は元々父がやっていて、僕が2代目なんです。贅沢は出来ませんが、僕はこの生活に満足なんです」
こんな地味な商売…
なんかもったいない、と思ってしまう私。
「なずなさん」
ゆごうさんがぽつりと言った。
「僕なんかが言うのは生意気ですが、お子さんには好きなことさせてあげて下さいね。人間、好きなことをして生きて行くのが一番だと思うんです」
ゆごうさんに会ったのは、この日が最後になった。
出産予定日には、あとひと月以上もあるのに、私は切迫早産をしてしまった。
2000gに満たない未熟児の育児は本当に大変で出口の見えない戦いのような日々だった。けれど、出産から時が経つにつれて、少しずつ母子ともに落ち着き、1年後にやっと【Hugo古書店】を訪ねる事が出来た。
ゆごうさんに娘の『莉里(りり)』を絶対みせたかった。
きっと喜んでくれると思う。
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