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うんうん、と嬉しそうにうなずく、おじさんの瞳からポロリと涙が溢れるのを私は見逃さなかった。
「おっと…これは失礼」
おじさんは慌てて、スラックスからティッシュを取り出して、両目の下を交互に拭いた。
嫌な予感がした。
足元からじわじわと寒気がしていた。
ゆごうさんはいない。
ここには。
いえ。この世界から。
おじさんは俯き、溜め息を吐くように言った。
「和義は、半年前に悪性リンパ腫で…」
え…
目の前が一瞬にして、モノクロの世界になる。
「……見つかった時には、もう手遅れでした。転移が早くて、治療の甲斐なく、28歳の若さでこの世を去りました。
…花島さん、親バカですけど、あいつ良い息子だったんですよ。しがない古本屋の親父から生まれたのに、子供の頃からそりゃあ優秀でね。数学が得意で、塾も行かないで国立大入って。大学院出て研究の道に進んで。親思いの本当に良い息子だったんですよ…ただ」
おじさんはフッと自嘲気味に笑った。
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