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声を掛けても、店員が出てくる気配はない。
ぐるりと私を取り囲む膨大な量の本。厳選したものだけを置いているのか、古本にありがちなうらぶれた感じはなく、立派な装丁の背表紙が並ぶ。
今どき、こんなにお金を掛けて作った本は本屋さんでは売ってない。
分かった……!
この店は本を骨董品として売ってる店なんだ。
こりゃ、児童書なんかあるわけがないな…
帰ろうと出入り口に向かった時。
「お探しの本は何でしょうか?」
背後から、低音なのによく響く声がして、私は振り向いた。
えっ…
視界に飛び込んできたのは、サラサラの黒髪を肩につくくらいまで伸ばした、切れ長の瞳を持つ青年だった。
「え、あの、その…」
ハーフのモデルみたいなすごい美形だ。私のドキドキが伝わったのか、お腹の赤ちゃんがポンポンと内側から蹴っ飛ばしてくる。
今からイケメンに興奮するなんて…
末恐ろし。
「ここにはなくても、奥の在庫にあるかもしれません。パソコンですぐにお調べ出来ますので、よろしかったらタイトルをどうぞ」
にっこりと笑う美青年店主。
素敵な笑顔を向けられて、断れるわけがない。
私は本のタイトルを告げ、
「フランスの作家が書いた児童書なんですけど、とてもロマンチックなお話なんです」と付け足した。
「わかりました。少々、お時間がかかるかもしれません。こちらにお掛けになってお待ちください」
そう言って、カウンターの奥から
ひょいとパイプ椅子を持ち出し、通路の真ん中に広げた。
背が高くて、ものすごくスリム。グレーのカッターシャツにピッタリとしたブラックジーンズがバンドマンみたい。
なのに、いかにも本屋さんて感じのデニムのエプロンをしてるのがギャップでかわいい。
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