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ーーもしもし、こちらはゆごう、と申します。
花島なずなさんでしょうか?
ゆごう、と名乗るその低音ボイスだけで、あの古書店の店主だとすぐにピンと来た。
【Hugo古書店】から私のスマホに連絡が入ったのは、ちょうど1週間後のことだった。早速、買い物がてら出向いてみる。
「神田の古本屋で見つけました」
前回来た時と同じ服装で、美貌の若い店主は満足気な笑顔を見せた。
なぜか私の顔を見るなり、素早くパイプ椅子を広げてくれた。好意に甘えないのも悪い気がして座ってしまい、自然に雑談モードになる。
「わあ、これです。懐かしい!」
ロングヘアの目の大きな女の子が不安気に受話器を手にしている表紙。私が大事にしていた【もしもしニコラ!】だ。
「遠いところまで探しに行って頂いて…ありがとうございます」
本を抱き締め、ぺこりとお辞儀をすると、ゆごうさんは少し赤くなった。
「いや。僕はフランス文学びいきなんですよ。だから、フランスの作家のことになるとついムキになってしまう。うちの在庫にないのが悔しくて。お客様のご要望に応えるのがこの古書店の絶対的な使命で、こうして本をお届けする事が出来て、僕としては大変嬉しく思ってます」
「フランス文学ですか…難しそう」
会話も上の空に、私は静かに感動していた。
ゆごうさんの優しい語り口。長いまつ毛。穏やかな笑みの口元。
神様に選ばれた人間とは、ゆごうさんみたいな人だ。その存在だけで人を魅了してしまう。
世の中に、こんなに美しい男の人がいるなんて。
「海外文学は自分に合う訳者と出会えれば、親しみやすいですよ。
難しいことはありません。
僕の一番好きな作家はビクトル・ユゴー。レ・ミゼラブルは子供の頃からの愛読書です。店名の【Hugo古書店】もユゴーにちなんでます」
「わ…Hugoって、フゴ、じゃないんだ、ユゴーって読むのね!ごめんなさい、私、フゴ古書店だとばかり」
私の言葉にゆごうさんは、あはは、と破顔した。
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