21人が本棚に入れています
本棚に追加
(………も、もっと大きい声を出さないと)
わかっているのに、のどがきつく閉じられたみたいに、詰まって感じる。
声を出そうとすればするほど、上手く声が出ない。
小説を書くときはスラスラ出てくる言葉が、なにも浮かばない。
本当は出るのだ、もっと大きい声。
でも、教室でみんなの前だと思うと、その声はどんどんとしぼんでしまう。
そしてそんな私をみんなが笑って、わざと無視しているのではないか……なんて。
自意識過剰なことすら思う始末だ。
「……あ、あの……ノ、ノート………っ」
「ーーー笠原さん!」
「……!」
それはとてもよく響く声。
教室の喧騒すらも一瞬、おさまった。
声の主は、扉側の一番前。
私の方を真っ直ぐみているクラスメイト。
(……冬室くん)
冬室くんの少し黒目がちな目が、私を見ていた。
「……笠原さん。ごめん、よく聞こえなくて。もう一度言ってくれる?」
……教室はそれまでの騒々しさから一転、様子を伺うように静かになる。
冬室くんの難聴はみんなが知っているので、彼の邪魔にならないよう気を使っているのだ。
みんなの注目は冬室くんへ……そしてすぐに私へ。
冬室くんが聞き取れなかった私の言葉はなんだと、一斉にこちらへ意識をむけてきた。
最初のコメントを投稿しよう!