ある、コメント

5/10
前へ
/96ページ
次へ
「……ふゆっ……」 驚きのため大声が出そうになり、慌てて口をおさえる。 図書室は基本的に私語禁止だ。 ならばと声をひそめて話しかけようとするも、やはり思いとどまった。 …あまり小さい声では冬室くんに聞こえないかもしれない。 なんとなく、彼の右耳に目がいく。 少し考えて、私は自習のカムフラージュのために持ってきたノートにペンを走らせた。 『いつからいたの?』 冬室くんはそれを見て、嬉しそうに表情をやわらげた。 胸ポケットからシャーペンを取り出して、私の文字の下に書き始める。 『10分くらい前。話しかけようかと思ったけど、笠原さん集中してたから』 結構前じゃないか。恥ずかしい。 『話しかけてくれていいのに。私に何か用だったの』 告白されたことが浮かび、胸が急にドキドキと落ち着かなくなっていく。 あれはきっと本気じゃないと。気にしないでいようとすればするほど、鼓動は早くなっていった。 冬室くんはそんな私の内心に気づく様子もなく、また返事をノートに綴った。 『別に用はないんだ。図書室に来たら、笠原さんの姿が見えたから』 …あ。特に用はないのか。 なーんだと拍子抜けした私を尻目に、冬室くんは更にペンを動かす。 『ってのは、半分言い訳。 本当は 教室に笠原さんがいないから、探していたんだ。 一緒にいたくて』
/96ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加