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吉野 カナ /
戦況は数分前とは明らかに異なっていた。
突如として参戦した狼型の魔物の加勢により、楠木は目に見えて追い詰められていた。
楠木の何らかの能力によって、秋人は身動きが取れなくなっているようだったけど、ネイキッドが遺した“神威”と魔物による猛攻は、楠木の操る人形や死体をもってしても、対応不可能だった。
楠木は右腕を失い、満身創痍。
二体の野獣に仕留められるのも時間の問題だった。
――『カナはここに残って、絶好の機を狙ってくれ。ここから先、楠木の意識のほとんどはオレと魔物たちに向けられるはずだ』
まさに、秋人の宣言した通りに事は運んでいる。
アタシは秋人が黒いマントで地面を腐敗させて作った塹壕のような穴倉に身を潜め、その機を待っていた。
アタシの特異点であれば、この戦いの隙を突いて、楠木の首を獲ることも不可能ではない。秋人が絵に描いたように、楠木はあの獣たちで手一杯だ。
今この瞬間だって、殺れる気もする。
だが、まだだ。秋人の言う“機”はこんな瞬間じゃない。
必ずその時は来る。
アタシは辛抱強く待つんだ。
焦って全てを無駄にするわけにはいかない。
みんなが繋いだ好機。
その全てがアタシの肩にかかっている。
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