17.ネイキッド

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こんなにボロボロになったのはいつぶりだろうか。 サタンにちょっかいを出したあの時か、夜叉に負けたあの時か。どちらも遠い昔の話な気がしてならない。 「耐えるか」 痛手こそ負ったものの、フェンリルの奥の手は乗り切った。 「惚れ直したか?」 俺は〝創造主(ゼウス)〟で構築した“神威”を解除する。 もはや、勝敗は決した。 それは、俺とフェンリルの間にある暗黙の了解だった。 「もう一度聞く。どちらを選ぶ? 俺と来るか、ここで死ぬか」 念を押すように言う。 「ただ一つ言えるとすれば、前者を選べば退屈させないってことだ」 長い沈黙が続いた。 俺は切り落とされた腕を拾いにゆっくりと歩き出す。アドレナリンが引いてきたのか、今になって痛みが鮮明になる。 「そうまでしてこの儂を従えたい理由は何だ?」 「俺は存分にこの世界を楽しみたい。その為には、どんな奴も黙らせる強さが必要だ」 すでに冷たくなってしまった腕を拾い上げる。 これだけ綺麗に切断してくれたのなら、治癒のスペルで充分に元に戻るはずだ。 「俺の剣になれ。俺とお前なら、“三王”の足元を揺らがせることはくらいはできるはずだ」 フェンリルは鼻で笑う。 「その“三王”とやらは、貴様よりも強いのか?」 「ああ。紙一重だがな」 「その紙一重の差を、この儂で埋めようと……?」 「要はそういうことだ。不服か?」 フェンリルが笑った。 今度は大声で、周りの視線を気にする素振りもなく。 もうこんな薄暗い穴の中でひっそりしている理由はない。 楽園(ユートピア)を地上に創る。 それだけの自信が今の俺にはあった。 「面白い、気に入ったぞ」 フェンリルは笑うだけ笑うと、僅かにその笑いを残したまま言った。 「貴様の使い魔になろう。儂もその“三王”とやらを見てみたい」 「契約成立だな」 思わず笑みが溢れる。 あとは契約という事務手続きみたいなものだけだ。 フェンリルと契約が成立すれば、ダンジョンはクリアした扱いとなり、崩壊に向かう。他の連中からはいくらか非難がありそうだが、そんなことを気にしているようじゃ、上には登れない。 誰にも文句は言わせやしない。
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