17.ネイキッド

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胸元を這う、痛みとも取れないその“熱さ”に視線を落とす。 俺の心臓から血に染まる黒い刃が突き出していた。 「え、は……はっ?」 本題を終えて、気が緩んでいたのは確かだ。 だが、そうじゃない。 それでも、俺なら気がつくはずだ。 コイツは今、この瞬間に突然現れた。 俺の……影の中から。 理解が追いつかない。 だが、それでも確かに分かるのは、どう考えても、この胸を貫く刃が致命傷だってことだ。 背後に何かいるのは分かる。 だが、それを確かめるだけの時間すら、俺には残されていない。 血の流れが腹の下のほうから込み上げて来る。 「ごふ……っ」 自分でも吐いたことのない量の血反吐。 意識が、視界が、朦朧としてくる。 終わりが近づいてくる。 「や、ら……」 思うように声が出ない。 それでも、“神威”の操作だけは上手くいった。 囚われていたフェンリルが解放される。 フェンリルは憂いと怒りを含んだ複雑な眼差しで、俺を見ていた。 「ご、ふ……」 あんな大層なことを言った傍からこれじゃあ、格好がつかないよな……。 だが、後始末だけはやらせてもらう。 “神威”が形を作り変えていく。 どうやら、俺はそれを見届けることもできなそうだ。 この型は唯一の自立型。 どのタイミングで“神威”が機能を停止するかは分からないが、願わくば、背後でほくそ笑むこのクソ野郎を蹴散らしてほしいところだ。 全身の力が抜け、勝手に体が崩れ落ちる。 こんなところで、こんな形で終わるとは思いもしなかった。暇潰しで楽園なんかを作ろうとしたから、バチが当たったのかもしれない。 いいところだったのにな……。 物事の大抵のことは、いいところで終わるようにできているみたいだ。ドラマにしろ、ゲームにしろ。 今、決定的に違うのは、もうこの続きは見られないってこと。 まあいいさ。 こうなっちまったものは仕方ない。 続きは他の奴らが見てくれる。 俺の代わりに。 思考がゆったりと、闇の中に溶けていく。 そして、俺は夢を見る。 ユートピアの連中と笑いあって、ただ酒を飲み交わすだけの他愛もない日常を。 もう訪れることのない、そんな平穏を。
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