18.その時

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柳 秋人 / 全てがスローモーションに見えた。 同時に、脳味噌の回転もスローモーションになってしまっているようだった。 何が起こっているのか。 あまりにも唐突で、あまりにも想定外の出来事を目の前にしたとき、人はこうまで無力なのか。 「リーダー……」 ネイキッドの胸を貫く黒い刃。 彼の背後に突然現れたその黒い影は、淡々とその所作をこなした。つまりは、彼に致命的な一撃を与えるというほんの数秒の所作を。 「嘘、だろ」 猪熊がこの世の終わりでも目にしたような声で言い、がくりと膝を地面に落とした。 絶望的な表情が並ぶ。 どいつもこいつも、酷い面だ。 俺も含めて。 「笑えねぇ冗談はよせよ……」 こんなところで死ぬようなタマじゃねぇだろう。 “三傑”っていう奴は、こんな穴蔵で終わるような人間じゃないだろうが……。 あの黒いのは何なんだよ。 あの魔物(マモノ)の能力か? いや、違う。あれは全く別の個体だ。 一つのダンジョンに魔物(マモノ)が二体。 あり得ないことではない。 だが、現実的ではない。 魔物(マモノ)が誕生すること自体が、そもそもレアなケースだっていうのに、それが二体なんてことは、特殊なケース過ぎる。 いや、そもそもだ。 そんなポッと出の魔物(マモノ)にネイキッドが殺られること自体があり得ない。 きっと何かの作戦の一部なんだ。 あれは幻で、彼は死んだふりでもするつもりなんだろう。 「いやぁぁあぁ!!」 俺を現実に引き戻したのは、カナの悲鳴。 嫌な音がした。 肉が潰れるような音が。 「設楽……?」 楠木の操る巨大な人形の手の下に広がる赤い血の海。 人形が押さえつけていたのは、設楽。 「おい、楠木……それはどういう意味だよ」 設楽の身体が楠木の人形によって、押し潰されている。 楠木はにっこりと笑う。 うっかり力の加減を間違えてしまったよ、そんなつまらない冗談でも飛び出しそうな笑みだったが、その目は笑っていなかった。 「答えろよ、楠木ィィィ!!!」 いや、答えなんて必要ない。 この男は、明確な意図を持って、このタイミングで設楽を殺した。 ーー特異点(ジョブ)、〝冥王(ハデス)〟!!! 裏切り者は、こいつだったんだ。
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