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始まりが急なら、終わりも突然だった。
何が起こったかよくわからない内に、先生の唇は離れていた。
「なん…で」
涙が一筋、つう、と伝って落ちていった。
先生の表情は、涙でぼやけて見えなかった。
大好きな香りが離れて行く。
「俺は、ずるい大人なんです。
椹木さんは俺のことなんて早く忘れて、もっと相応しい相手と恋をするべきだとわかっているのに、
俺のことをずっと覚えていて欲しいとも思ってしまうんです。」
私が動けないでいるうちに、卒業おめでとう、と言い残して先生は出て行った。
全身の力が抜けて、その場にへたり込む。
なんだよ、それ。
先生って本当に最低な人だ。
言われなくたってこんなの、忘れられるわけない。
きっと死ぬまで忘れない。
唇にそっと触れてみる。
タバコの苦さだけが、まだそこに残ったままだった。
end
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