第五章 木の上の神様 五 

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 車で里見の所に行くと、端末を降ろす。 台車に乗せて運んでいると、家の中は台車でもいいなと気が付いた。  里見の部屋に行くと、里見はいつもと変わらず、外を向いていた。 「氷花さん、楽しそうですね」 「うん。家の中の移動は、台車の改良でもいいなと思ってさ」  信哉の車椅子を入れなくても、台車で運べる気がする。 田舎は椅子の文化ではなかったので、車椅子のままだと会話がし難い。 「僕には出張の土産もないのですか?」  そんなに範囲を広げて、土産を購入していなかった。 「仕事に行ったの。遊びではないから、土産はなし」  でもと、車に戻るとクッキーを持ってきた。 「仕事先で貰ったクッキー。これでお土産にしてね」  里見には、どうやって食べさせたらいいのであろう。 里見は、全身が生まれつき麻痺していて、口も動かす事ができない。 今も、会話は端末から出る電子音であった。
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