第五章 木の上の神様 五 

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「女性が妊娠していたとします。その胎児を殺すのは殺人ですか?」  俺は殺人だと思う。 しかし、社会では認められる行為であった。 「命とは、人にとってそういうものです」  難しくなってきたので、俺は硬直してしまった。 元々、道徳やら倫理やらは、俺の天敵であった。  そこで、里見が長い溜息をついていた。 俺に説明するのが、至難の業なのであろう。 「俺が祠堂家に思う事は、工場という胎児を生かそうとして死んだ父親がいたこと。 でも、その死は偽装ではないかと、氷花さんが感じているということです」  厳密に言うと、祠堂という何かを守る為に、死んだ男がいたこと。 それを、祠堂は、繰り返し行っているかもしれないということであった。 「少し分かった。祠堂という何かの為に、偽装して保険金を得た人は、 自分の為では無かったということか」 「まあ、近いとします」  そこまでして守ったものが無くなると聞いて、又、殺しが発生するのではないのかと、 里見は心配していた。
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