第六章 夏は草に埋もれて

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 それは、君島が辺見の表情を見てから切り出そうとしていた。 どこか、君島と辺見は、夫婦のような雰囲気があった。それを、朝子は平然として見ていた。 「まず、私たちの関係から説明した方がいいようだね」  そこで、朝子は下を向いてしまった。 やはり、聞きたくない事なのかもしれない。 「私と、ここの辺見君、元祠堂君だね。それと、朝子君で、三人で夫婦だと思って欲しい。 私は辺見君の子供が見られて、一緒に子育てできて、本当に幸せだった。 その機会をくれた朝子君に、本当に感謝している。 もしも、私が朝子君に恨まれて殺されたとしても、この幸せは本物で後悔はない」  君島は、その上で自分は男しか愛せないという。 そして、生涯愛したのはただ一人、辺見孝太郎だけであった。 「初恋も辺見君で、生涯愛した人も辺見君だけだよ」  朝子はそれでいいのかと、俺と慶松は朝子を見ていた。 すると、朝子は涙を浮かべて頷いていた。
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