第六章 夏は草に埋もれて

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 妙なバランスで成り立っているが、これは三人の問題であるので、 俺はそれ以上の追及はしない。  長い時間を経て、この奇妙な三人での夫婦は、互いに信頼し合っている。  そこで、君島は辺見にビールをお願いしていた。 辺見は、立ち上がると、キッチンから瓶のビールを持ってきた。 俺も、君島にビールを勧められたが、車だからと断っておく。  君島はビールを飲むと、少し目を伏せた。 「……いつか、私たちの秘密に気付いて、来る人間がいるだろう。 その最初に気付いた人には、素直に打ち明けようと決めていた」  そういえば君島は、講義でも最初に発見した者を評価していた。 後続する者が、どんなに素晴らしい理論を打ち立ててきても、 最初の発見者を評価する。 未熟でも発見したという、その一歩が世を動かすと教えていた。
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