第六章 夏は草に埋もれて

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「その一歩でしたか、俺達」 「よく覚えていたね。いい生徒だったよ。一を教えると、ムキになって十を知ろうとしてくる。 でも、気付くと、十を超えているような、優秀な君達だった」  君島は、ラーメン屋松吉で俺達を見て驚いたが、 その後、遠見や里見に作った端末を見て納得したという。 万人に使用可能だから、個人も使用可能というのは誤りで、 合った物を使用できる喜びというのが、物作りであるらしい。  しかし、遠見や里見に使用した技術は、やがて万人の使用する物になるのかもしれない。 「君達は万人受けではなく、個を見ている。これからの世の中で、いつか、 花開く技術だと思う」  だから、俺達が祠堂に関わり、訪問を求めた時に、君島と辺見は、 一歩を踏み出す決意をしたという。 「それにね、君達は既に一を知った。ムキになって十を知るだろう。 でも、追及されたくはないしね。先に言ってしまえば、これを公表するかが焦点になる。 それは、君達の判断と正義に任せる」  君島は潔い。 俺は、元より公表するつもりも、正義を追うつもりもない。 ここに犯罪があったとしても、これが罪かというと、俺には罪ではない。
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