第八章 夏は草に埋もれて 三

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「どうして、俺なのでしょう?」 「氷花君は、同情するでもなく、真っすぐに俺を見ていたでしょ。 それで、手を差し伸べてきたので、つい取ってしまった」  同情しないとは、よく言われる。 でも、信哉の足を見ると、かなりの勢いで、回復していた。 これならば、松葉杖や杖に移行できそうだ。 「氷花君の両親も、迷いもなく握り飯をくれたよね。よく似ている」  両親と似ていると言われたのは、初めてかもしれない。  信哉は車の運転に慣れてきたのか、気持ち良さそうに歌をうたいながら、笑顔であった。 信哉の手は、自由に動いていた。麻痺しているのは、足だけなのかもしれない。 「氷花君は、電気が専門だよね。野菜好きなのに、どうして電気なのかな?」  それは、よく聞かれる。 でも、本当の事を言うと、皆に否定される。
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