第八章 夏は草に埋もれて 三

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 手摺りに付けると、信哉を簡易座席に座らせる。車椅子は、俺が担いでみた。 「あ、引っ張った方が楽だ」  そこで、車椅子を引っ張りながら、ゆっくりと登る、自動運搬装置の速さで登ってみた。 「ここ、夏祭りがあるのですが、この坂を上るのが大変で……」  もう登れないと、諦めている祖母を思い出し、つい作ってしまった。 「でも、この上で見る花火が近くて、綺麗なんですよ」  木々が茂っていて、階段の空をも隠していた。 ここは、神社の森で、伐採がされていない。 「ここには、御神木がありまして、すごく古い木です」  夏祭りの日、もっと近くで花火を見たくて、人目を偲んで、御神木に登ってしまった。 神社の屋根を下に見ながら、枝に隠れていると、祭りの光が見えていた。
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