第九章 夏は草に埋もれて 四

8/28
前へ
/604ページ
次へ
「お寺ですか……」  珍しい寺ではなく、普通の寺であった。観光するような場所ではない。 でも、希望通りに行ってみると、信哉は線香を出していた。 「線香ですか?」 「氷花君の先祖にご挨拶をする」  俺の先祖は、ここに眠っているが、信哉には関係がない気もする。 でも、墓に案内すると、本当にお参りしていた。 「田舎では、まず、墓石を洗い、掃除をします」  綺麗に洗って、タオルで拭き取ってから、線香をあげる。 枯れ葉も綺麗に掃いておく。 「よし!」  信哉は、杖で立ち上がると、墓石の前で手を合わせた。 「静香の恋を実らせてください」  願い事をするならば、線香よりもお賽銭ではないのか。 それに、先ほどの神社で願ったほうが良かった。 「浅見さんの婚約者は、そんなに大変な相手なのですか」  俺も線香をあげると、墓石洗いグッズを片付けた。
/604ページ

最初のコメントを投稿しよう!

188人が本棚に入れています
本棚に追加