第九章 夏は草に埋もれて 四

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「……静香の惚れた相手は、大変みたいだね。多分、言っても気付かないだろうし」 「浅見さん、潔癖症以外は完璧ですから、きっと相手にも分かって貰えますよ」  浅見は、潔癖症さえ無ければ、いい女性だと思う。 ただ、その潔癖症が問題なのだが、本人も努力しているので、 いつかはどうにかなるのではないのか。 「浅見さんの、潔癖症……は、凄いですけどね。 俺なんか、視界に入るだけで殺菌されそうですよ。それに、机も電話も、 全部殺菌されています。毎日、それも日に二回とか……」  浅見は手袋をして、殺菌しに来るのだ。俺は日々、黴菌になった気分であった。 いっそ、俺が殺菌液に浸かった方が早い気もする。 でも、日々黴菌扱いなので、殺菌液に浸かったら、 俺が溶けてしまうかもと思うようにもなった。
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