第九章 夏は草に埋もれて 四

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「お父さん、護浩ちゃんよ。氷花さんの家の次男坊。ほら、お人形さんみたいな子よ」  相田の母親は、俺を無視して、家の奥に声を掛けていた。  中から男性が靴を履きながら出てきた。 「本当だ。護浩か。すっかり大人か……。でも、随分と美人になったな……」 「相田はいますか?」  そこで、夫婦は顔を見合わせた。 「前に護浩ちゃんの家にも聞いたけどね、 重満(しげみつ)は行方不明のままよ……もう五年になるかしらね……」  やはり、俺のアパートで泊まった後から、消えてしまっていた。 「何かあったのですか?俺、何も聞いていなくて……」  相田の両親は、失踪するまでの悩みなど知らないという。 相田は、いつもニコニコしていて、あちこちで遊んでいた。 飲み仲間も多かったが、皆、悩みなど聞いていなかった。
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