第九章 夏は草に埋もれて 四

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 そこではなくて、寿梨の口調が相田と一緒であった。 それに、どうして寿梨が俺の名前を知っているのであろう。 「いいえ、氷花だよ。俺がガキの頃からの、腐れ縁だよね。親友の、氷花」  懸命に寿梨が、何かを訴えている。 「氷花、約束を忘れないでね」  寿梨に言われているのか、相田に言われているのか分からなくなり、混乱してしまう。 寿梨とは今日が初対面なので、約束はないだろう。  では、俺は相田と何か約束をしていたのだろうか。  俺は首を捻ると、相田の家に咲いている花を見た。 俺は、花に興味がなく、実ばかりを探していた。 自然の中にある実は、人が食べる甘さではない。 でも、その酸っぱい味が、俺は好きであった。
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