第九章 夏は草に埋もれて 四

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 俺は、庭で酸っぱい味を連想している。 「ごめん、相田。俺、約束を破るよ」  思い出した。 俺は、かなり昔に、相田と約束をしていた。相田は、秘密を埋めたと言った。 俺が、多分すぐに見つけられると言うと、相田は、自分が死んだら掘り起こしていいと言った。 そして、見たら燃やして欲しいと頼まれた。 「すいません、庭を少し掘らせてください」  相田は言った、俺には掘り出せないよと。だから、場所はすぐに分かった。  俺が、好物にしていた木の実。その木の下に埋めたのだ。 「木の真下か?」  俺の食い意地を見て、大切な木だと思ったのであろう。 でも、埋めたのならば、取り出せる。 それに、この木は、相田の両親が丁寧に手入れをしている。 根を掘ったくらいでは、枯らしはしないだろう。
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