第九章 夏は草に埋もれて 四

27/28
前へ
/604ページ
次へ
 浅見はクッキーを焼くのか。 味見用があったので、一口食べてみると、教科書通りというような味がしていた。 「……それと、兄が輸入商をしておりまして、これを持たされてしまいました」  現地のサンプル達のようで、ダンボールに詰め込まれているが、高級品ばかりであった。 スカーフや、装飾品などもある。 「困った家族でして」  皆、信哉を心配しているのであろう。 スカーフなど、母は近所と分け合ってしまうので、何枚あっても大丈夫だ。  信哉の家族の気持ちを受け取って、母は少し涙ぐんでいた。 弟を思う気持ちが、この得体の知れない箱の中にあるのだろう。
/604ページ

最初のコメントを投稿しよう!

188人が本棚に入れています
本棚に追加