第二十一章 遠い雷鳴

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 しかし、玄関横の曇りガラスに、黒い影が見えていた。 真っ暗ではあるが、それが人影であると分かる。 「誰か、いますか?岩崎なのか?」  稲光が走り、玄関にくっきりと人影が浮かび上がった。 でも、中に入ってくる様子はない。  岩崎ならば、玄関の鍵を持っている筈だ。 立ったままではなく、鍵を開けて入ってくる。 「楽斗……さん?」  返事を待っていると、後ろから慶松の携帯電話が鳴る音がしていた。 「瑠璃子さん……」  慶松に掛けていたのは、瑠璃子であった。 瑠璃子のごめんなさいという言葉が、雨音に消されずに廊下に響いていた。
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