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玄関では、孝弘と楽斗が、ガラス超しに対峙していた。
「楽斗さん、俺は宍戸を渡しません」
孝弘にしては、きつい口調であった。
孝弘は常に穏やかで、何事にも笑っているような節があった。
しかし、今は真剣な表情になっている。
「俺は、宍戸に出会うまで、死んだように生きてきた。
田舎の農家の長男で、何事も穏便に、穏やかに、怒る事に泣く事も許されずに、
ただ、生きろと言われていた」
孝弘の、静かな叫びであった。
過去から百年も続き、これから百年も続くような人間関係の中で、
ただ問題なく生きろと言われてきたと、孝弘は呟いていた。
「……宍戸に出会って、生きたいと思った。宍戸と!一緒に生きてゆきたいと、願った……」
それは、有希に言わなければならない台詞のような気もするが、
孝弘の言葉に、楽斗の影が少し揺れていた。
それに、殺意が消えてゆく気がした。
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