第一章 木の上の神様

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 整理整頓はされているが、床は傷だらけで、窓もガタガタと揺れていた。 どこかじっとりと、全体に水の気配もしている。 コンクリートの色が濃く、そこまで水が染み込んでいる気もしていた。  工場の奥は暗く、何が置いてあるのかが分からない。 工場見学というよりも、今度は肝試しの雰囲気さえ出てきた。 「ここの製品は、手堅い品ですよ。このまま消えてしまうのは、 惜しいのではないでしょうか?」  小さいながらも、職人の技術の光る製品だったと思う。 こういう製品が消えてゆくのは、損失である気がする。 「それは、ありがたいお言葉です。でも、この工場のように、消えてゆく運命なのでしょう」  工場は、一つのホールのようになっていて仕切りはなく、 作る製品によって、ラインの配置を変えるのだそうだ。 足元が悪いので、遠くからの見学になった。
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