勇気

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勇気

僕は、一昨日の本屋さんの前にいた。 七月の陽射しが、僕の肌とアスファルトに伸びた影をじりじりと焼く。汗が数筋、額から頬をゆっくり流れていく。 でも、扉を開ける勇気がなかなか出ない。 僕は、どうしてここへ来たのだろう? 本がほしいから? いや、この前だって、そんなに本がほしかったわけじゃ…… 先日も、涼む目的も兼ねてたまたま入ったのだ、この本屋に。 何も不思議なことはない。たまたまだった。 でも、今は不思議に思う。 彼女のことを考えてる自分に…… 「あなたは……」 「はっ、はい……!」 また不意だった。背後からの少女のような声にカクカクとした動きで振り返れば、小首を傾げる彼女がそこにいる。一昨日は束ねられていた長い黒髪を今日は下ろして、耳にかけている。眼鏡の奥の瞳は、控えめな見た目とは反対に意志が強そうだった。 僕の鼓動が、確かに高鳴った。
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