6人が本棚に入れています
本棚に追加
「あっ、あの本、面白いですね」
高鳴ったのは胸だけでなく、声も。上擦ったと言った方がいいのか。
恥ずかしさが込み上げるが、そんな僕を彼女は別に気にしていなかった。
「よかった」
むしろどこかホッとしているような雰囲気だ。僕も安堵した。
でも、彼女が一瞬考える素振りを見せた。僕も今度は不安になる。
と、彼女が言う。
「続き、読みましたか?」
「……え?」
僕は、何を聞かれているのか分からなかった。言葉はもちろん聞き取れているが、どういう意味なのか理解できなかったのだ。
彼女が、「あっ、いえ、なんでもないです」と言った。
これは、話題を変えた方がいいのだろうか。でも、一応お礼だけは言おうと思った。
「教えてくださり、ありがとうございます」
「そんな、わたしは自分の仕事をしただけで……」
そう言って、彼女は少し俯いた。照れ隠しなのだろうか。それとも、やはり違う話題を話した方がよかったのか。
耳にかかっていた髪が、サラサラと横顔に落ちる。
さわりたい。
突如湧き上がったそれに、僕は勝手に慌てふためいてしまった。
「えっ、えっと……あ、また、オススメの本、ありますか?」
僕のカッコ悪い姿に、でも彼女は顔を上げ、柔らかく微笑んだ。
それは、夏の陽射しより、眩しく思えた。
最初のコメントを投稿しよう!