勇気

2/2
前へ
/12ページ
次へ
「あっ、あの本、面白いですね」 高鳴ったのは胸だけでなく、声も。上擦ったと言った方がいいのか。 恥ずかしさが込み上げるが、そんな僕を彼女は別に気にしていなかった。 「よかった」 むしろどこかホッとしているような雰囲気だ。僕も安堵した。 でも、彼女が一瞬考える素振りを見せた。僕も今度は不安になる。 と、彼女が言う。 「続き、読みましたか?」 「……え?」 僕は、何を聞かれているのか分からなかった。言葉はもちろん聞き取れているが、どういう意味なのか理解できなかったのだ。 彼女が、「あっ、いえ、なんでもないです」と言った。 これは、話題を変えた方がいいのだろうか。でも、一応お礼だけは言おうと思った。 「教えてくださり、ありがとうございます」 「そんな、わたしは自分の仕事をしただけで……」 そう言って、彼女は少し俯いた。照れ隠しなのだろうか。それとも、やはり違う話題を話した方がよかったのか。 耳にかかっていた髪が、サラサラと横顔に落ちる。 さわりたい。 突如湧き上がったそれに、僕は勝手に慌てふためいてしまった。 「えっ、えっと……あ、また、オススメの本、ありますか?」 僕のカッコ悪い姿に、でも彼女は顔を上げ、柔らかく微笑んだ。 それは、夏の陽射しより、眩しく思えた。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加