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一歩
茜が射し込む店内で、彼女は出会った日と同じく本を抱えていた。
「ど、どうしたんです?」
息を切らしている僕に、驚きの表情を浮かべる彼女は尋ねた。
が、僕も。
「名前」
「え?」
眼鏡の奥の瞳が、さっきよりもさらに大きく見開かれた。
「名前、聞いてなかった」
「……本当に続きを読んでないんですね?」
「読もうと思ったよ。でも、読めなかった。正直、先を知ることが恐かったんだ」
本の続きに、答えがあったのかもしれない。でも、それは、僕の望む答えではないかもしれない。反対に、読まなくても、望む方向に進むとは限らないけど、未来は分からないから未来なのだと思う。
だったら、僕は自分で歩む。
「君も、同じだったろ?」
彼女は、僕をまっすぐ見据えていた。
僕も、それを受け止める。出会った日は、一瞬目を離してしまったから。その一瞬も、もう見逃したくなった。
彼女のほんのりピンクの唇が動いてーー
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