無題

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無題

その本の背表紙には、こうあった。 「タイトル……?」 「それ、良い本ですよ」 思わず呟く僕に、控えめな少女の声が応えた。 横を見れば、眼鏡をかけた女性が、数冊の本を両手に抱えて立っていた。声の様子から少女と思ったが、どうやらこの本屋の店員らしく、胸にネームプレートを付けていた。黒く長い髪を後ろに束ね、顔立ちは眼鏡のせいでもあるかもしれないが地味。服装だってお世辞にもお洒落とは言えない。けれど、どうしてだろうか。 綺麗。 その言葉が浮かぶ。 「あ、あの?」 「へっ? あ、すいません。これ、買います」 彼女の声で我に返り、慌ててその本を本棚から抜き出した。改めて本を見ると、こげ茶色で無地の装丁は地味だが、僕が好んで読む本の背表紙や表紙とは違うからなのか、ここにあると目立つ。 まるで彼女みたいだ。 僕は、顔を上げた。 「あ、れ?」 そこにはもう誰もいなかった。
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