七不思議

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どこの学校にもあるように、私のいた小学校にも、七不思議の噂がありました。 七つある噂のうち、殆どは「夜動き出すベートーベンの肖像画」とか、「走り出す人体模型」といったありがちなものでしたが、一つだけが、少し変わった怖い話でした。 何故この話が独特だったのかというと、私の学校には少し珍しい構造の場所があり、この話もそこにまつわるものだったのです。その場所は、階段でした。 私の学校は、玄関を入って左へ進むと、大きく開けた空間があり、そこを迂回するようにカーブして、一階から二階へ階段が伸びています。校内で一番大きなその階段は中央階段と呼ばれ、下の開けたところはロビーといいました。問題の話は、ここが舞台でした。 「中央階段を上ったてっぺんの手すりから、下のロビーを覗いていた子が、身を乗り出しすぎて頭からロビーに落ち、剥き出しにした前歯を床に食い込ませて死んだ。今でもロビーには、その時の歯型がある」というのが、その噂でした。 この話を聞いた小学生の私は、すぐにロビーへ向かいました。歯型を確認するためです。見ると、床には、確かに歯型のような跡がありました。私は驚きました。歯型があったからではありません。その歯型が、無数にあったからです。私がこのことを友達に話すと、皆こぞってロビーの床を見に行くようになりました。 今思えば、あの床の跡は歯型などではなく、単なる何かの傷だったのでしょう。それでも、自分のいる学校の、実際にある場所の話というのは、小学生の私たちには大変リアルに感じられました。また、歯型という、いつでも確かめられる証拠の実在は、噂が本当であると思わせるには、十分な説得力がありました。何よりこの話は、他の七不思議と違い、皆知らない話だったので、私たちは大いに興奮したのでした。 この話は当初、誰も知りませんでした。 この話を初めに言い出したのも、皆に広めたのも私です。 ですが、私がこの話を誰から聞いたのか、それがどうしてもわからないのです。 親友で幼馴染の女の子から聞いたような気がするのですが、私にはそんな子はいないのです。 親や当時の友達に聞いても、そんな子はいなかったというのです。 私はどうして、この噂を知っていたのでしょうか。
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