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私たちは夕闇が迫る中、脱輪して田んぼに落ちるなんてことにならないように気を付けて、車を川べりの少し道幅が広くなった路肩に停めた。
広いと言ってもて車二台分あるかないかくらいでたかが知れているから、ちょっと大きめの車が来たらたちまち立往生させてしまう。
そう指摘すると彼は、こんな時間こんな場所に誰も来るはずがない、だからこそ穴場なんだよ笑った。
車を降りると、昼間の名残の草いきれがむわっと体を包み込む。
風はなく、一気に汗が噴き出した。
時刻は午後7時頃でようやく暗くなり始めた程度、まだ蛍狩りには少し早かったが、さすがに山あいは日の暮れるのが早い。
ほどなく川面を掠めるように、ひとつふたつ、みっつ、よっつと蛍が飛び始めた。
この日はたまたま新月だったのか山に隠れていたのか月明りもなく、くどいようだが24時間営業のコンビニや駅や自動販売など明かりの漏れるものが一切ないので、7時半を回るころには辺りは本当に真っ暗になった。
都会に住んでいると、普段ここまでの闇はあまり経験したことがない。
夜寝る時に部屋の電気を消したって、テレビの主電源とかDVDプレイヤーのデジタル時計とか、何かしらの光が必ずそこにはある。
ところがここには、自ら光を発するものが一切ない。
いや、ひとつだけある。
それが、蛍だった。
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