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少し緑がかった黄色い小さな光点が、ほわん、ほわん、と明滅を繰り返し、音もなく静かに飛び交っている。
「わ、すごい! 蛍! 本物!」
「いたたた、背中叩くなって。はは、でも喜んでくれてよかったよ」
「あそこ、ね、たくさん光ってる! あ、あっちにもいるよ! きれい~!」
「あんまりはしゃぐと川に落ちるぞ」
「ねぇねぇ、あれ見て! 一匹こっちに飛んでくる!」
頭の中で想像していたより数倍美しい光景に、私はテンションが一気に上がってしまっていた。
興奮気味に騒ぐ私に、彼は呆れたように、けれど嬉しそうに相槌を打ってくれた。
蛍たちは最初おのおの好き勝手なタイミングで光っていたものが、しばらくすると何となくその点滅のサイクルが合って来る。
こんな小さな生き物が、誰に教えられたわけでもないのに一生懸命周りに合わせて調整しているのかと思うと、ちょっと感動してしまった。
やがて気が付けば川底を覗き込まなくてもいいくらいに、水を張った田の上や川岸の木の梢辺りなどあちらこちらにたくさんの蛍が舞っていた。
空には月こそ出ていなかったが雲ひとつなく満天の星が瞬き、しゃがみ込んで高いところを飛ぶ蛍を見上げると、空と地上の境目が曖昧になるほど幻想的な光景だった。
「素敵。本当に素敵。とっても綺麗」
「だろ?」
初めて見る光景に、私はこの感動を言い表す上手い表現が思いつかなくて同じ言葉を繰り返した。
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