蛍の飛ぶ夜

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その内に少しは目が慣れてきたので、隣にいる彼の輪郭くらいはぼんやり見えるようになってきた。 それでも下手にうろうろ動き回ると、踏み外して川に落ちそうなほど足元は何も見えない。 車の中には確か懐中電灯があったはずだからあれを取りに戻ろうか、でもそんなので照らすとせっかくの蛍が放つ儚げな光が台無しになるし。 私がそう迷っていると、突然すっと彼が私の手を握ってきた。 普段は超が付くほどの照れ屋でムードも何もない彼だけど、さすがに今夜はロマンチックな気分になったのだろうか。 暗くてよくはわからないけれど、もう片方の手はどこかを指差している。 今いる場所より更に奥、川に小さな橋が架かっている辺りだ。 「え、何? あっちに何かあるの?」 見ると目を凝らすまでもなく、たくさんの蛍が飛び交っているのがわかった。 確か川面の上にまで岸の木の枝が張り出して、ここに着いた時にはもう他の場所より最初から随分と薄暗かった辺りだ。 あそこなら、橋の上に立って両側の蛍を眺めることができるだろう。 彼は何も言わず、黙って私の手を引き歩き出した。 真っ暗な中を明かりもつけずに歩いたりして平気かなと一瞬だけ思ったけれど、何となく彼と二人なら大丈夫な気がして素直について行くことにした。
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