蛍の飛ぶ夜

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そこはさっきまでいたところより川幅が広く、流れもいくらか緩やかなようだった。 葦だろうか、草がたくさん茂っているようだけど、どこまで岸でどこから水面なのかは闇に紛れてよくわからない。 その上を数えきれないほどたくさんの蛍が、冷たい火の玉のようにふわり、ふわり、と飛んでいる。 蛍にも性格があるのか、時折変わり者がスーッとまっすぐこちらに飛んできたりして、捕まえようと手を伸ばすのだけど、するりと逃げられてしまう。 じっと見つめていると遠近感がぼやけてきて、不思議な浮遊感に包まれた。 私は目の前の景色にすっかり心奪われて見入ってしまった。 「ねぇ。連れてきてくれて、ありがとう」 彼は返事の代わりに、繋いだ手をぎゅっと力強く握り返してくれた。 その掌は、汗ばんでいるのかしっとりと濡れていた。 あれ、緊張してる? そう言えばさっきから一言も喋らないし、これってひょっとしたら―――――。 もしかしてこのロマンチックな場所で彼は、プロポーズしようとしてくれてるのかも知れない。 唐突に、私はそう思った。 現実には暗くて見えないけれど、照れ屋の彼が口もきけないほど緊張して、たらたらと汗を掻いている様子が目に浮かぶ。 前日に降った雨のせいで空気が湿っぽい気がしたが、私は暑さも忘れてただただ感激していた。
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