蛍の飛ぶ夜

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いつもの癖ですぐさまバッグから取り出し、片手でホームボタンを押したら暗さに慣れた目には眩しすぎる光が飛び込んできた。 直視できずに思わず視線を外す。 途端にそれまではかろうじてぼんやりと見えていた周りのシルエットが消え、完全な漆黒の闇に取って代わられる。 人工の明るい光に目がくらみ、星と蛍の光だけでは自分の爪先さえも見えなくなったのだ。 自分はこんなにも深い闇の中にいたのかと、改めて驚くと同時にまた更に少し怖くなった。 けれど直に目は慣れる。 私はスマートフォンを操作してLINEの画面の開く。 送信者はすぐ隣にいる彼だった。 メッセージは「今どこ?」と表示されている。 何の冗談だろう、トンチかクイズのつもりかな、と思わず首を傾げたくなった。 どこも何も、今こうやって手を繋いで一緒にいるというのに。 そこまで考えたところで、私はふと気づいてしまった。 スマートフォンを操作すると、どうしたって否応なく光が漏れる。 それはこの光源のない世界では、見落としようがないほど目立つはずだ。 だから彼がLINEでメッセージを送ったとしたら、すぐ傍にいる私が気付かないはずがない。 でも、気付かなかった。 ということはつまり、彼はスマートフォンなんて触ってない。 じゃあ、このメッセージを送ってきたのは誰? と言うよりも、今私と手を繋いで隣にいるこの人は、誰?
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