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私が今まで生きてきたなかで最も感動した話をさせてもらいたい。
中学二年の春から秋にかけてのことだ――。
まず私についての説明をしよう。私は中学二年の男子で、名を安藤唯一という。「唯一」と書いて「ゆいち」だ。孤高で唯我独尊、端的に私の個性を表現した、まったくもって適切な名前だと思う。
しかしながら名前以外に誇れるものはない。今のところ――と付け加えておくべきか。
人生を暗示するような詩的で崇高な名をつけてくれた親はまあ、世間一般から見て金持ちの類に入るだろう。自分ひとりの手では余るほどの大きな屋敷を持ち、自分で家事をするつもりはないので家政婦数人と契約して毎日ローテーションで通って来させ、自分は家具雑貨販売の大きな会社を経営して、頻繁に国内外への旅行を繰り返している。私には現地視察の出張だと説明しているが、同行する男性秘書と親密な時間を過ごしたいだけなのかは、子どもの私が邪推することではない。言い忘れたが、うちの親は母親ひとりである。
親およびその肩書きや住んでいる家は私の属性にはなるだろうが、私個人の特性ではない。
私の特性はと言えば、物理的な接触の少ない一人親に育てられたせいか自立心が強く大人びた性格であるのと、学校の成績はそれなりに良いのを除けば、長所らしき点はない。もっとも、自覚できる部分では、という意味であり、他人から見た場合に長所と呼べるものがあるかどうかについては知りようもない。
外見は――これは人生において最も重要な個性だ――残念ながら、褒められないだろう。
中学二年男子の平均身長は一六〇センチを少し超えるくらいらしいが、私はそれに程遠い。だいたい女子の平均と同じか、それにも劣るくらいだ。反対に体重は高校三年の平均にも勝る。ずんぐりむっくりという形容詞がぴったりはまる体形だ。
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