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「へぇ、王子様が本貸してくれたの?」
翌日の昼休み、売店で買った菓子パンを食みつつ、夏菜子が美樹に話しかける。
「……まぁ、うん」
「それって店の商品じゃない私物ってことでしょ」
「そう」
ちなみに、その本を差し出された過程については割愛した。自分が活字に疎いという事実はこの際、置いておきたい。
「どんな本?」
「あー、置いてきちゃった」
春香も夏菜子も揃って、えー、っとがっかりした顔になる。
「みんな知ってる本?」
「さあ……どうかな」
あまり話すとボロが出そうなので、話題が過ぎていくのをじっと待つ。
「けど本を貸すってそれなりの関係よね?」
「思った!だって借りパクされるかもしれないわけじゃん」
「本から始まるラブストーリー!」
「いやぁ、それはどうかなぁ」
再び盛り上がる二人の横で、苦笑いしつつ弁当の卵焼きをつつく。
本を貸し借りする仲といえば親密度が増すが、そもそも『脳みそ薄そうなおまえにはこれ』と渡されている事実に目をそむけるわけにはいかない。盛り上がっている二人には悪いが、まだあの男の印象は『クチの悪い最低な男』から1ミリも変わっていない。
それに本は、机の上に置いたまま、中身も見ていない。ページを開ければ文字が目に飛び込んできて、なおかつ、その文字を目で追いかけなければいけないという苦手意識になかなか手が出なかった。
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