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それから一週間が経過した。
本はそのままベッドの戸棚に置いたままになっていて、毎朝と毎晩その表紙を見かけては目を逸らしている。
読まなければいけないとわかってはいる。わかってはいても、なんだかんだと理由をつけて先延ばしにしている自分がいる。借りている本だという意識がないわけではないが、どうしても苦手意識がぬぐえない。
人に借りた本を持っていられるのは、せいぜい一週間くらいだろう。
そして、今夜はその一週間のリミットなのだ。
(冒頭だけ見て、読んだつもりで返せばいいか)
まるでテスト前の勉強のように極限まで引き延ばし、ついに美樹は本を手にとった。
主人公は自分よりも少し歳上の会社員をしている女性で、現実世界のどこにでもいる普通の女性だ。同窓会を知らせるハガキが届いたところから、物語は始まっている。
導入部分がファンタジーではなくてよかったと美樹は、安堵しページをめくる。
話を読み進めるうちに、自分なら、めんどくさいと思うだろうけど、社会人になっていたら同窓会に行きたいと思うんじゃないかな、と自分に置き換えてみる。そこで出会った同級生や仲が良かった友達、それは昔に戻ったような感覚で、いつか夏菜子や春香ともこういう関係になるのかなと寂しくなる。
同窓会に遅れて来た男は、かつての自分の想い人で、恋い焦がれた自分の記憶が蘇る主人公に、美樹はいつしか、自分を重ねていた。自分も中学生の頃に好きだった同級生に会ったら彼女と同じことを思うだろうという気持ちがページをめくる手を早めてしまう。
どうしてそうなる?この人は何を考えている?このあとは何が起きる? 次から次へと彼女と彼に起きる運命の出来事に翻弄されていく。
予想つかない展開に、美樹は時間を忘れて没頭していた。文字がつくる世界に、わくわくして、時には失望して、そして胸をときめかせる。絵や写真のように見てすぐにわからないところが、想像を掻き立ててくれる。
この主人公の外見や男の容姿は自分だけが思い描いていて、読む人それぞれに違うのだろう。その違いに正解も優劣もない。活字だからこその自由な世界を、美樹は一気に駆け抜けた。
最後のページをめくり、作者のあとがきページに切り替わったのを確認し、物語が完結したのだとわかった。
「終わった……?」
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