第4話:王子様のおしごと

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「ごめんなさい」  美樹が男に向かって頭を下げた。 「え?何が?」  なぜ謝られているのか、見当もつかないといった声音で男が尋ねる。 「この本はお金を出して読む価値のある本だと思った。きっと他にもそんな本が世の中にはたくさんあると思う。中身を見るだけ見て立ち去るなんて、本を作った人たちに失礼だったって思った。ごめんなさい」  美樹は頭を下げたまま、言った。  本を読み終わったあと、ずっと考えていた。自分はもとから本に対して苦手意識が強かったが、こんなにわくわくする世界が広がっているなんて知らなかった。この本を書いた人がいて、この本を作った人がいて、そして男のように誰かに本を届ける仕事をしている人がいる。  それは、雑誌も同じことが言える。自分が、本を買わずに中身を見るという行為をさも当たり前の権利のように言ったことは、これらすべての人を否定するようなものだったと思った。  要するに、自分の認識が甘く、世間知らずだったことを素直に認めざるをえなかったのだ。
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