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男は立ち上がり、そのまま棚に向かい、美樹はその後ろをついてゆく。
「まぁ、あれが読めたんだったら、このへんの本ならいけるかな」
「あ、ねぇ、このワタリヒカル?って人の本、他にないの?」
「……あれしかねーよ。一発屋の作家だからな」
「えー、そうなの?あの作者さー、気持ちが優しいと思うのよね。女性かなぁ」
「さあな」
美樹の問いに、男はそっけなく応えて、棚を漁っている。
「でもところどころひねくれてるっていうか、なんか臆病なところがあるのよね」
「悪かったな」
男は、ふと手を止めて美樹を睨んだ。
「え?」
「俺の本、つったろ」
「は!?俺のって、まさかアンタの?」
本の表紙と男の顔を見比べる。ワタリヒカル、これが男の名前なのだろうか。
「本名は渡瀬光(わたせひかる)で、それはペンネームな」
「わ、わかってるわよ!」
まさか書いた本人が目の前にいるとは思わず、思ったそのままを言っていた。
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