第4話:王子様のおしごと

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「だったら最初から言いなさいよ!」 「言うつもりなかったんだよ。それ、薄っぺらいから活字初心者にちょうどいいし」 「だーれーが、初心者よ!」  つい最近まで読めなかったことは、すっかり棚に上げている。 「じゃ、あの本、買うわ」 「別に、気を遣わなくたっていいぜ」 「繰り返し読むのに、いちいち借りるわけにはいかないでしょ」 「……何度も読むな」 「何よ、素直に喜びなさいよね!」  男は美樹に背を向けて、再びレジの方に歩いて行く。  美樹は棚を確認し、一冊だけあった同じタイトルの本を持ってレジに向かった。 「はい、これ!買うから!」  レジの前に本を勢いよく置いて、美樹は男をびしりと指差した。 「あと、これからは自分のファンに優しくしなさいよ!」  本屋の王子様は、美樹の言葉にあっけにとられたがすぐに吹き出した。 「何がおかしいのよ!」 「いや、別に……くっ…」 「なんで笑ってんのよ!」 男は美樹の顏を見て、ただ楽しそうに笑った。 <完>
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