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「もしかして、あいつ?」
美樹には思い当たることがあった。
先月、ここに来て雑誌の中身を存分に楽しみ、帰ろうとしたとき一番奥にあるレジに見慣れない若い男が座っているのに気づいた。その若い男は、立ち読みしている美樹たちを睨みつけるように見ていたのだ。
「ちょっと文句言ってくる」
「美樹っ!」
春香が名前を読んでも、そのまま美樹はレジに向かって歩いた。そこには案の定、あのときの若い男がレジのそばで、座り込んで大量の本を紐解いていた。
「あんたでしょ。中身、見れなくしたの」
美樹はその男の頭に向かって、声をかけた。男は座ったまま、美樹を見上げた。
「だったら、何?」
「このへんはここしか中身見れないのに、どうしてくれるのよ」
「そもそもなんで中身が見たいんだ」
「なんでって、中身見てから買うかどうか決めたいからにきまってるじゃん」
男は、ゆらりと立ち上がった。その背は美樹よりもはるかに背が高く、おそらく180センチ近くはあると思われた。Tシャツにデニムに、書店の黒いエプロンをつけた男は、黒髪の短髪で一見、真面目そうな風貌にも見えた。
急に男を見上げるカタチになり、美樹は一瞬たじろいだが、男は表情を変えずに美樹を見下ろした。
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